人的資本経営とは、人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、育成や活用への投資を通じて中長期的な企業価値向上を目指す経営のあり方です。2023年3月期決算の有価証券報告書から人的資本に関する情報開示が求められるようになって以降、対応に追われる人事担当者・経営企画担当者は少なくありません。この記事では、人的資本経営の基本的な意味と、2026年3月期以降にさらに拡充される開示義務の最新動向を、金融庁・内閣官房などの一次資料をもとに整理します。

この記事を読むとわかること
  • 人的資本経営の意味と、従来の人材マネジメントとの違いがわかる
  • 人的資本経営が注目されるようになった歴史的な経緯がわかる
  • 人的資本の情報を開示する義務が、いつから・どんな企業に生じているかがわかる
  • 2026年3月期から拡充される開示項目の具体的な変更点がわかる
  • ISO30414との違いや、SSBJ基準の適用スケジュールがわかる

人的資本経営とは

結論から言うと、人的資本経営とは、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です。

従来の人材マネジメントでは、人件費は「コスト」として位置づけられ、いかに効率よく管理するかが重視されてきました。一方、人的資本経営では人材を「資本」とみなし、教育・研修・エンゲージメント向上への支出を「投資」として捉え直します。この視点の転換こそが、人的資本経営という言葉が使われる最大の理由です。

人的資本経営について、HRプロは「組織の持続的成長と働く個人の持続的幸福を同時に追求すること」が本質的な人的資本経営だと位置づけています(出典: HRプロ)。単に開示書類の項目を埋める作業ではなく、経営戦略と人材戦略を連動させ、従業員の幸福と企業の成長を両立させる考え方だといえます。

この記事の検証方法(編集部が確認した一次資料)

lucegram編集部は、本記事の執筆にあたり内閣官房・金融庁・SSBJ(サステナビリティ基準委員会)関連の一次資料計7件と、大手メディアの報道3件を、2026年9月6日時点でそれぞれ本文を直接取得して確認しました。

法令改正の公布日・施行日・対象となる企業規模は、可能な限り内閣官房や金融庁が公表した一次資料のページ(例:金融庁「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正・公布ページ)から引用しています。会員限定記事などで詳細を確認できなかった情報は本文に含めず、断定できない項目のみ「〜と報じられています」のように出典を明示した上で書き分けました。

📝 補足

本記事は制度の解説を目的としています。自社の情報開示への具体的な記載方法は、必ず金融庁のサステナビリティ情報開示特集ページや顧問の専門家(監査法人・弁護士等)が示す最新情報をあわせてご確認ください。

人的資本経営が注目される背景

人的資本経営が注目される背景には、ESG投資の広がりと、企業価値評価における無形資産の重要性の高まりがあります。

投資家が企業を評価する際、工場や設備といった有形資産だけでなく、人材力・組織文化・知的財産といった無形資産を重視する傾向が強まっています。象徴的な例として、積水化学工業は「JPX日経インデックス人的資本100」の構成銘柄に前年に続いて選定されたことを2026年9月4日に発表しました(出典: PR TIMES)。人的資本への取り組みが、投資インデックスの選定基準として実際に使われている一例です。

また、リンクアンドモチベーションの小笹会長は2026年9月4日付の日経ビジネスのインタビューで「日本発の人的資本経営を世界へ」と語っており、日本企業が人的資本経営を競争力の源泉として発信していく動きが進んでいることがうかがえます(出典: 日経ビジネス電子版)。

「人材版伊藤レポート」と人的資本経営コンソーシアム

人的資本経営という考え方が日本で広く知られるきっかけとなったのが、2022年5月13日に経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート2.0」です。同レポートの中核は「経営戦略と人材戦略の連動」にあります(出典: ビジネス+IT)。

これを受けて、企業の実践を後押しする目的で2022年7月25日に「人的資本経営コンソーシアム」が設立されました。金融庁もオブザーバーとして参加しており、企業間の情報交換や好事例の共有を進める場として機能しています(出典: 金融庁)。

有価証券報告書における人的資本開示義務(2023年3月期以降)

人的資本経営が「努力目標」から「開示義務」に変わった転機が、有価証券報告書における情報開示の制度化です。2023年1月31日改正の「企業内容等の開示に関する内閣府令」により、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書からサステナビリティ情報の記載欄が新設されました(出典: 金融庁)。

この改正により、有価証券報告書の「従業員の状況」の記載において、女性活躍推進法に基づく女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性に関する指標の開示も求められるようになりました(出典: 金融庁)。対象は、有価証券報告書を提出している上場企業などです。

人的資本経営を実際にどう導入するかの具体的な手順や社内体制の整え方は、人的資本経営を導入するための具体的な手順とベストプラクティスで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

2026年3月期以降に拡充される開示項目

2026年3月期の有価証券報告書からは、人的資本の開示内容がさらに拡充されます。日経BPは金融庁への取材で「2025年内に内閣府令の改正案を公表し、パブリックコメントを経て施行する予定」と報じていましたが(出典: 日経BP)、この改正は2026年2月20日に正式に公布・施行されました(出典: 金融庁)。

今回の改正で追加された主な変更点は、次の3点です。

  • 連結ベースの人材戦略:「連結ベースの企業戦略と関連付けた人材戦略」の記載が新たに必須になりました
  • 従業員給与に関する開示:「従業員給与等の決定方針」および「提出会社の従業員の平均給与の対前年比増減率」の開示が求められます
  • 記載位置の変更:従業員情報の記載欄が「第1【企業の概況】」から「第4【提出会社の状況】」へ移動しました

これらの新規定は、令和8年3月31日(2026年3月期)以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用されます(出典: 金融庁)。給与水準や人材戦略の踏み込んだ開示が求められるようになる点は、人事担当者・経営企画担当者が特に押さえておきたい変更です。自社の具体的な施策や達成目標を数値データとともに示せるよう、早めの準備が欠かせません。

⚠️ 注意

「2026年3月期から開示が拡充される」という情報は、2025年時点では「予定」として報じられていましたが、2026年2月20日の内閣府令改正で正式に確定した内容です。社内資料を作成する際は、必ず金融庁の最新の公表内容を確認してください。

女性管理職比率・男女間賃金差異の公表義務、101人以上の企業に拡大(2026年4月〜)

有価証券報告書の開示とあわせて押さえておきたいのが、女性活躍推進法の改正による情報公表義務の対象拡大です。従来、男女間賃金差異の公表義務は常時雇用労働者301人以上の企業が対象でしたが、令和8年4月1日(2026年4月1日)施行の改正法により、101人以上300人以下の企業にも新たに公表が義務化されます(出典: 厚生労働省)。

この改正について、アマノ株式会社の解説記事では、男女間賃金差異とあわせて女性管理職比率の公表義務も101人以上の企業に拡大されると説明されています(出典: アマノ株式会社)。中小規模の企業も含めて情報公表への対応が必要になる範囲が大きく広がる改正だといえます。

項目 改正前 改正後(2026年4月1日〜)
男女間賃金差異の情報開示 常時雇用労働者301人以上の企業 101人以上300人以下の企業にも拡大
根拠法令 女性活躍推進法(改正前) 改正女性活躍推進法

「人的資本可視化指針」改訂のポイント(2026年3月23日)

2026年3月23日、内閣官房(日本成長戦略本部事務局)は「人的資本可視化指針」の改訂を公表しました(出典: 内閣官房)。副題には「戦略に焦点をあてた人的資本開示」とあり、経営戦略と人材戦略の連動、投資家の期待に応えるための情報開示の充実が改訂の狙いとされています。

付録として、開示基準・開示事項例の整理や、経営戦略と人材戦略の連動事例がまとめられており、企業が実際に開示文書を作成する際の参考資料として位置づけられています。自社の開示内容を検討する際は、金融庁の内閣府令改正とあわせて、この指針の内容も確認しておくとよいでしょう。

ISO30414との違い

ISO30414とは、2018年12月にISO(国際標準化機構)が発表した、人的資本に関する情報開示の国際規格です(出典: 野村総合研究所)。コンプライアンスと倫理・コスト・ダイバーシティ・リーダーシップ・組織文化・健康と安全・生産性・採用と異動と離職・スキルと能力・後継者計画・労働力という11の領域で、人的資本に関する情報開示の枠組みを示しています。

項目 ISO30414 日本の法定開示(有報)
性質 任意の国際規格 法定開示
根拠 ISO(国際標準化機構) 金融商品取引法・内閣府令
対象 任意に採用する企業 上場企業など(有報の提出企業)
開示義務 なし(任意) あり(法定)

ISO30414と日本の法定開示は、どちらも人材に関する情報開示という点では共通していますが、性質は異なります。ISO30414の認証取得を目指す企業もありますが、日本の上場企業がまず優先すべきは、金融庁の内閣府令に基づく法定開示への対応です。

SSBJ(サステナビリティ開示基準)の適用スケジュール

SSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準とは、日本国内のサステナビリティ開示の統一基準を定める枠組みで、有価証券報告書における人的資本を含むサステナビリティ情報開示の今後の土台になります。SSBJは2026年5月29日、SSBJ基準に完全準拠していない企業が「SSBJ基準を踏まえて開示している」と記載すべきでないとする注意喚起を公表しました(出典: SSBJ)。

金融庁の2026年2月20日改正では、時価総額が一定規模以上の東京証券取引所プライム市場上場会社を対象に、SSBJが公表した基準の適用を段階的に義務付ける方針が示されています(出典: 金融庁)。自社がいつからSSBJ基準の適用対象になるかは、今後公表される具体的な適用スケジュールを踏まえて確認する必要があります。

人的資本経営を実践するには

ここまで見てきたように、人的資本経営は「開示すればよい」というものではなく、経営戦略と人材戦略を連動させ、実際に人材への投資を進めることが本質です。もっとも、制度や指針を理解しただけでは、自社の人的資本経営をどう進めればよいか具体的なイメージは湧きにくいものです。

人的資本経営を導入するための具体的な手順やベストプラクティスは、人的資本経営を導入するための具体的な手順とベストプラクティスで詳しく解説しています。基本概念の整理から5つの導入ステップ、施策例、成功のポイントまで、実践フェーズに進む際にあわせてご覧ください。

また、人材戦略の各論として、企業の成長を加速する人材要件の設計や、「人材要件」と「コンピテンシー」の重要性で解説している考え方も、経営戦略と連動した人材戦略を組み立てるうえで参考になります。人的資本経営は一度整備すれば終わりではなく、開示制度の改正動向を継続的に追いながら、自社の施策と指標を見直し続けることが求められます。

よくある質問(FAQ)

Q. 人的資本経営とは簡単に言うとどういう意味ですか?

A. 人材を「コスト」ではなく「資本」として捉え、教育や制度への投資を通じて中長期的に企業価値を高めていく経営の考え方です。人事評価や採用だけでなく、経営戦略そのものと人材戦略を連動させる点が特徴です。

Q. 人的資本経営の開示義務はいつから始まりましたか?

A. 2023年1月31日改正の「企業内容等の開示に関する内閣府令」により、2023年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から、人的資本を含むサステナビリティ情報の開示が求められるようになりました(出典: 金融庁)。

Q. 2026年3月期からは何が変わりますか?

A. 2026年2月20日改正の内閣府令により、連結ベースの人材戦略の記載、従業員給与等の決定方針や平均給与の対前年比増減率の開示が新たに求められます。従業員情報の記載位置も「第1企業の概況」から「第4提出会社の状況」に変わります(出典: 金融庁)。

Q. 人的資本経営とISO30414は同じものですか?

A. 異なります。ISO30414は企業が任意に採用できる国際規格であるのに対し、日本の有価証券報告書における人的資本開示は金融商品取引法に基づく法定開示です。両者は目的や性質が異なる別の枠組みです。

Q. 中小企業も人的資本の情報公表義務の対象になりますか?

A. 女性活躍推進法の改正により、2026年4月1日から常時雇用労働者101人以上300人以下の企業にも男女間賃金差異の情報公表が義務化されます(出典: 厚生労働省)。有価証券報告書の開示義務そのものは上場企業などが対象ですが、女性活躍推進法に基づく情報公表義務は中小規模の企業にも広がっています。

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この記事は lucegram編集部が最新の一次情報をもとに AI を活用して作成し、公開前に編集部が内容を確認・校閲しています。