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SaaSプロダクトの効率的な開発に向けた包括的ガイド

SaaSプロダクトの効率的な開発に向けた包括的ガイド

はじめに

クラウドコンピューティングの進化に伴い、ソフトウェア・アズ・ア・サービス(SaaS)の需要が高まっています。このSaaSプロダクトの開発は、従来のソフトウェア開発とは異なるアプローチが求められます。本記事では、SaaSプロダクトの開発プロセスや費用、そしてプロダクト戦略など、開発に関わる重要なポイントを網羅的に解説します。初めてSaaSプロダクトの開発に取り組む方に役立つ情報が満載です。

SaaSプロダクトとは

SaaSは、クラウド上で提供されるソフトウェアサービスのことを指します。ユーザーはインターネットにアクセスするだけで、ソフトウェアをダウンロードやインストールする必要がありません。この利便性の高さから、SaaSの需要が世界的に高まっています。

代表的なSaaSプロダクトには、Web会議ツールのZoom、プロジェクト管理ツールのNotion、会計ソフトのfreeなどがあります。SaaSプロダクトは、従来の一括購入型ソフトウェアとは異なり、月額課金制が一般的です。

SaaSプロダクトの開発アプローチ

SaaSプロダクトを開発する際の主要なアプローチは、フルスクラッチ開発とオープンソースの活用、そしてノーコードツールの利用です。

フルスクラッチ開発

フルスクラッチ開発は、ゼロからプログラミングを行い、独自のSaaSプロダクトを構築する方法です。自由度が高い反面、開発期間と費用がかかるデメリットがあります。

オープンソースの活用

無料で利用できるオープンソースソフトウェアをベースに、独自のカスタマイズや機能追加を行うアプローチです。開発コストを削減できる利点がありますが、コードの親和性を考慮する必要があります。

ノーコードツールの利用

最近では、プログラミングを行わずにSaaSプロダクトを構築できるノーコードツールが注目されています。bubbleなどのツールを使えば、コストを大幅に抑えられる可能性があります。

SaaSプロダクトの開発アプローチは、プロダクトの規模や目的、そして開発チームの技術力によって適切な方法を選択する必要があります。

SaaSプロダクトの開発プロセス

一般的なSaaSプロダクトの開発プロセスは、以下の通りです。

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要件定義

まずは、開発するSaaSプロダクトの概要を明確にします。ターゲットユーザー、解決したい課題、提供する価値などを整理し、機能要件を決定します。この段階では、ユーザーへのリサーチが不可欠です。

プロトタイプ作成

機能要件が決まれば、プロトタイプ(試作品)を作成します。実際に動くものを試作することで、利用シーンをイメージしやすくなり、改善点も見つけやすくなります。

UIデザイン

プロトタイプに基づき、SaaSプロダクト全体のUI/UXデザインを設計します。ユーザビリティに優れ、わかりやすいインターフェースを心がける必要があります。

開発

機能の仕様とUIデザインが決まれば、本格的な開発に着手します。フロントエンド(ユーザーインターフェース)とバックエンド(データ処理)の開発を並行して進めていきます。

テストとリリース

開発が完了次第、ユニットテストや結合テストなどを行い、プロダクトの品質を検証します。問題がなければ本番環境にリリースし、ユーザーに提供します。

運用保守

リリース後も、ユーザーのフィードバックを収集し、機能の改善や新機能の追加を継続的に行う必要があります。運用保守体制を整備しておくことが重要です。

SaaSプロダクト開発の費用相場

SaaSプロダクトの開発費用は、規模や複雑さ、期間などによって変動します。一般的な水準を見ると、以下のようになります。

  • MVP(最小機能プロダクト)開発費用: 約300万円
  • 本番リリースまでの開発費用: 1,000万円以上
  • サーバー構築費用: 約50万円
  • 運用保守費用: 月額約5万円

開発規模が大きくなれば、費用は増える傾向にあります。2,000万円を超える大規模開発も珍しくありません。

SaaSプロダクト開発の工数削減ポイント

開発費用を抑えるためのポイントをいくつかご紹介します。

要件を具体化する

要件を詳細に定義することで、開発中の追加作業を防げます。要件が曖昧だと、工数が余計にかかってしまいます。

優秀なメンバーを起用する

一見コストがかかるように見えますが、優秀なエンジニアやPMを起用すれば、開発効率が上がり、総工数を削減できる可能性があります。

最小機能に絞る

初期リリース時は、必要最低限の機能に絞ることをおすすめします。早期にリリースし、その後段階的に機能を追加していく方が賢明です。

補助金を活用する

システム開発補助金などを利用すれば、開発コストの一部をカバーできます。積極的に補助金を検討しましょう。

SaaSプロダクトの成功に向けた戦略立案

SaaSプロダクトを成功に導くには、適切な戦略の立案が不可欠です。主な戦略パターンとしては以下のようなものがあります。

ローコスト戦略

機能はシンプルですが、低価格を売りにするパターンです。フリーミアムのMailChimpなどがこの例です。

ランド&エキスパンド戦略

低価格で小規模から導入し、徐々にアカウントを拡大していく戦略です。SlackやNotionがその典型例です。

ニッチ戦略

特定の業種や業務に特化し、アンメットニーズに応えるバーティカルSaaSの戦略パターンです。

ハイタッチサービス戦略

導入時の手厚いサポートを売りにするエンプラ向けSaaSの一般的な戦略です。

ベスト・オブ・ブリード戦略

特定業務で最高峰の機能性とブランド力を持つポイントソリューションを目指す戦略です。

オール・イン・ワン戦略

ユーザーが使う全ての機能を1つのプロダクトで提供するSMB向けのバーティカルSaaSの戦略パターンです。

APIプラットフォーム戦略

他サービスとの連携を前提に、APIでの価値提供を目指す戦略です。

シナジー戦略

異なるサービスとのシナジーを活かし、ロックインを狙う戦略パターンです。

適切な戦略の選定は、プロダクトの成熟度や対象市場、競合環境などを考慮する必要があります。戦略策定の際は、プロダクトビジョンやロードマップとの整合性を保つことが重要です。

SaaSプロダクト開発の体制と組織づくり

SaaSプロダクトを開発する上で、適切な体制と組織作りも欠かせません。プロダクトの成長ステージに応じて、以下のように体制を変遷させていく必要があります。

プロダクト・マーケット・フィット期(社員数10名以下)

この段階では、生き残りをかけてプロダクトの価値検証に注力します。創業者がPMを兼務し、トップダウンでプロダクト開発を推進するのが一般的です。

ゴー・トゥ・マーケット・フィット期(社員数30名前後)

PMFが見え始めた頃から、専任のPMへ権限を移譲し、開発プロセスを整備していきます。デザイナーの採用や、スクラム開発の導入なども進めます。

成長&参入障壁構築期(社員数30名以上)

組織が大きくなるにつれ、プロダクト開発を組織的に進める必要が高まります。この段階では、デザインシステムの構築や、価値探索サイクルの体系化などに取り組みます。

プロダクトの成長ステージに合わせて、柔軟に開発体制を変更していくことが重要です。PMやデザイナー、エンジニアなどの専門家を適切なタイミングで投入することで、開発効率を最大化できます。

SaaSプロダクト開発の課題と対策

SaaSプロダクト開発では、さまざまな課題に直面する可能性があります。代表的な課題と対策を挙げます。

課題1: ユーザーニーズの的確な把握

  • 対策: リサーチを重視し、ユーザーとの対話を密に行う

課題2: プロダクト戦略の策定

  • 対策: ビジョンとロードマップを明確化し、組織内で共有する

課題3: ユーザー体験の向上

  • 対策: UIデザインに注力し、デザインシステムを構築する

課題4: 継続的な改善

  • 対策: ユーザーフィードバックを収集し、アジャイル開発を実践する

課題5: 運用保守体制の確保

  • 対策: 保守費用を初期から想定し、体制を整備する

このように、SaaSプロダクト開発では様々な課題が想定されますが、適切な対策を講じることで乗り越えられます。開発チームとしての経験値を高めていくことも大切です。

成功事例から学ぶSaaSプロダクト開発

ここまでSaaSプロダクト開発のポイントを解説してきましたが、実際の成功事例から学ぶことも重要です。代表的な2つの事例をご紹介します。

事例1: 株式会社ネクスタム

システム受託開発企業のネクスタム社は、SaaSビジネスの立ち上げを検討していました。しかし、ノウハウが乏しく専門家の支援を求めていました。

当社では、企画段階から参画し、市場調査の手法や顧客発掘、営業ステップなどを具体的にサポートしました。その結果、同社は無駄なく新規SaaSビジネスを立ち上げられました。

事例2: 株式会社アライズ

電子カルテ・POSシステム開発のアライズ社は、BtoBのSaaSビジネスにおいて、マーケティングからカスタマーサクセスまでの一連の流れが滞っていました。

当社では、マーケティング戦略の策定と組織改革の支援を行いました。その結果、社内の現場メンバーが方針を理解し、施策を推進できるようになりました。

これらの事例が示すように、SaaSプロダクト開発では、専門家のサポートを活用することで、スムーズな立ち上げと運営が可能になります。

SaaSプロダクト開発の将来性

SaaSの市場規模は年々拡大しており、2026年には1兆6,000億円を超えると予測されています。SaaSビジネスモデルの定着と、法制度の整備などが後押ししています。

一方で、AIの進化によりSaaSプロダクトの在り方も大きく変わる可能性があります。AIを活用したプロダクト開発の加速や、新しいユーザー体験の実現など、プロダクトリーダーには革新的な発想が求められます。

このようにSaaSプロダクト開発を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。しかし、ユーザーニーズに基づいたプロダクト戦略を立案し、開発プロセスを磨き続ければ、成功への確かな一歩を踏み出せるはずです。

おわりに

SaaSプロダクトの開発は、従来の手法とは異なるアプローチが求められます。本記事では、開発プロセスや費用、戦略立案、組織体 制の在り方など、開発に関する重要なポイントを網羅的に解説してきました。SaaSプロダクトの需要は今後も高まることが予想されるため、本記事で紹介した知見を活かして効率的な開発を心がけることが肝要です。プロダクト戦略の策定から体制づくり、課題への対応に至るまで、一つひとつのステップを着実にこなすことで、ユーザーに支持されるSaaSプロダクトを生み出せるはずです。SaaSプロダクト開発は決して簡単な道のりではありませんが、本記事が開発の手引きとなり、読者の皆様の一助となれば幸いです。