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日本企業の採用戦略を形作る多様な手法 – コストと効果の両立を目指して

日本企業の採用戦略を形作る多様な手法 – コストと効果の両立を目指して

日本の企業が直面している採用課題は多岐にわたり、求職者への効果的なアプローチ方法を見極めることが欠かせません。少子高齢化による労働人口減少や雇用環境の変化に伴い、優秀な人材の確保が難しくなっている現状があります。加えて、デジタル化の進展により、求職者のニーズや行動パターンも大きく変化しています。こうした状況下で、企業は従来の採用手法に捉われず、新しいアプローチを取り入れる必要に迫られています。

本記事では、日本国内で広く活用されている主要な採用手法について、それぞれの特徴や長所・短所を比較しながら詳しく解説します。コスト面と効果の両立を図るため、手法の組み合わせ方や適切な選定のポイントも合わせて紹介していきます。求職者ニーズに合わせた戦略的な採用活動の実現に向けて、ぜひ参考にしてみてください。

定番の採用手法 – 求人広告・人材紹介など

日本の企業において長年にわたり活用されてきた定番の採用手法について、まずは概要と特徴を確認していきましょう。

求人広告の活用

求人広告とは、インターネットや就職情報誌などの求人媒体に掲載料を支払い、自社の募集要項を掲載する手法です。掲載された広告を見た求職者から直接応募が入るのを待ち、企業側で選考を行います。

求人広告は大きく分けてWeb媒体と紙媒体に分類されます。Web媒体には、マイナビやリクナビなどの総合求人サイトに加え、特定の業界や職種に特化したサイトも存在します。一方の紙媒体は、新聞の求人広告欄や求人情報誌、フリーペーパーなどが該当します。

  • メリット: 広範囲の求職者にリーチできる、希望の条件で絞り込み可能
  • デメリット: 掲載料がかかる、自社の魅力を十分に伝えにくい

求人広告は、求職者に対する露出が期待できる一方で、コストが発生する点が課題です。また、掲載できる情報量に制限があるため、自社の魅力を的確に訴求することが難しいケースもあります。

人材紹介サービスの利用

人材紹介サービスを利用する場合、企業は求める人物像や条件を転職エージェントに伝え、登録されている求職者の中から適した候補者を紹介してもらいます。

人材紹介サービスには、特定の業界や職種を専門に扱う会社もあり、ピンポイントで求める人材と出会えるメリットがあります。また、年収交渉や内定後の手続きなども人材紹介会社の担当者が代行してくれるため、採用プロセスの負担が軽減されます。

  • メリット: 求める人材に的確にアプローチできる、採用業務の負担軽減
  • デメリット: 採用成功時に高額の手数料が発生する

人材紹介を活用すれば、自社に合った人材を効率的に採用できる可能性が高まりますが、その分コストがかさむ点に注意が必要です。

ハローワークの活用

ハローワークは、国が運営する公共職業安定所のことで、求人情報の掲載や職業紹介を原則無料で行っています。求人票への記入など一定の手続きは必要ですが、求人広告やエージェントを介さずに求職者にアプローチできるメリットがあります。

  • メリット: 採用コストが発生しない、補助金の活用可能
  • デメリット: 求める人材に出会えない可能性がある、情報発信が制限される

ハローワークは無料で利用できる半面、求職者の質を担保しにくい点や、自社の魅力を十分に訴求できない点がデメリットとして挙げられます。

自社Webサイトの活用

企業が運営する自社のWebサイトに採用情報を掲載する方法もあります。Webサイト上で企業理念や事業内容、働く環境などを詳しく紹介できることから、求職者の理解を深めやすくなります。

一部の企業では、採用に特化した「採用サイト」や「採用オウンドメディア」を別途立ち上げ、ブランディングを意識した情報発信を行っているケースもみられます。

  • メリット: 自社の魅力を詳細に伝えられる、外部サービス利用に比べコストを抑えられる
  • デメリット: 認知度が低ければアクセスに限界がある、SEO対策などが必要

自社Webサイトを活用すれば、低コストで自社の魅力を発信できますが、求職者へのリーチ力が課題となります。アクセス数を確保するための工夫が欠かせません。

新しいアプローチが注目される理由

ここまでみてきた定番の採用手法に加え、近年では新しいアプローチが注目を集めています。その背景には、以下のような採用を取り巻く環境変化が存在しています。

オンライン化の進展と売り手市場の到来

新型コロナウイルス感染症の影響で、企業の採用活動はオンライン化が進みました。遠方の求職者とも容易につながれるようになった一方で、対面でのコミュニケーションが制限されるなどの課題も生じています。

加えて、コロナ禍の影響で一時的に経済が冷え込んだ反動から、現在の有効求人倍率は高止まりしています。つまり、求職者に有利な売り手市場となっており、企業は優秀な人材の確保に腐心する状況に直面しているのです。

人材ニーズの多様化と求職者目線の重視

DX(デジタルトランスフォーメーション)の浸透に伴い、IT人材やデジタル人材の需要が高まっています。一方で、働き方の多様化を望む声も強まっており、フレックスタイムや在宅勤務などに対応できる人材の確保も課題となっています。

こうした状況の中で、求職者一人ひとりのニーズに合わせた採用アプローチが不可欠になってきました。自社の魅力を的確に訴求し、求職者との良好な関係を構築することが、採用成功の鍵を握っているのです。

採用コストの最適化への意識の高まり

優秀な人材を確保するためには、積極的な採用活動が欠かせません。しかし、採用コストの増大が避けられない現実もあります。企業は限られた予算の中で、いかに費用対効果を高められるかが問われています。

このように、採用を取り巻く環境は目まぐるしく変化しており、企業は従来の発想から脱却し、新しいアプローチを取り入れる必要に迫られているのです。次の章からは、注目を集める新しい採用手法について詳しく解説していきましょう。

新しい採用手法 – ダイレクトリクルーティングやSNS活用など

ここからは、近年注目を集めている新しい採用手法について、具体的な内容と特徴を紹介します。

ダイレクトリクルーティング

ダイレクトリクルーティングとは、企業が主体的に求める人材を探し出し、直接アプローチを行う採用手法です。求人広告を掲載して応募を待つのではなく、能動的に動くことが特徴です。

具体的には、ビジネスSNSやダイレクトリクルーティングサービスを活用し、企業側から候補者にコンタクトを取ります。求職活動中の人材だけでなく、パッシブな層にもアプローチできるのがメリットです。

  • メリット: 優秀な候補者に直接アプローチ可能、ターゲットを絞り込める
  • デメリット: 人材探しに時間とリソースが必要、応募への誘導が課題

ダイレクトリクルーティングは、受け身の採用手法に比べてリソースを要しますが、費用対効果の高い採用活動が期待できます。BIZREACHなどのサービスを利用すれば、優秀な人材の発掘が容易になります。

ソーシャルリクルーティング(SNS採用)

FacebookやTwitter、InstagramなどのSNSを活用し、求職者とのコミュニケーションを通じて採用につなげる手法がソーシャルリクルーティングです。

企業は定期的に自社の魅力や社風を発信し、求職者の関心を惹きつけます。一方で求職者からの問い合わせにも対応し、双方向のやり取りを行うことで、ブランディングと採用の両立を目指します。

  • メリット: コストをかけずに幅広い層へのリーチが可能、企業理解を深められる
  • デメリット: 継続的な運用が必須、即効性に乏しい

SNSを活用すれば低コストで採用活動ができますが、インパクトのある情報発信と丁寧な対応が求められます。中長期的な視点が不可欠です。

カジュアル面談の実施

カジュアル面談とは、企業と求職者が対等な立場で自由に会話を行う機会のことです。選考の一環ではなく、互いの理解を深めることが目的です。

リラックスした雰囲気の中で行われるカジュアル面談では、企業側が求職者の人となりを把握しやすくなります。一方の求職者も、企業の社風や働き方を身近に感じ取れるでしょう。

  • メリット: ミスマッチのリスク低減、求職者との良好な関係構築が可能
  • デメリット: 即採用には直結しにくい、時間とリソースが必要

カジュアル面談は、採用活動の上流工程で実施することで、双方の理解を深めるツールとして機能します。ただし、コストとリソースの確保が課題となります。

ミートアップの開催

ミートアップとは、企業と求職者が集まり交流する場のことです。企業側が自社の魅力を直接アピールでき、求職者側も企業の雰囲気を体感できるのが特徴です。

参加者と社員が食事を共にしながら懇談するスタイルや、企業説明会形式のスタイルなど、開催形態は様々です。低コストで実施でき、新規の求職者開拓にもつながるメリットがあります。

  • メリット: 低コストでブランディング可能、マッチング精度の向上が期待できる
  • デメリット: 直接の採用効果は限定的、参加者の質と量を確保する必要がある

ミートアップの成否は、企画内容と告知・集客力次第です。継続的な実施を通じて、求職者との接点を広げていくことが重要となります。

このように、ダイレクトリクルーティングやSNS活用、カジュアル面談やミートアップなど、新しい採用手法には様々な特徴があります。企業は目的や課題に合わせて、最適な手法を選ぶ必要があります。

その他の採用手法 – リファーラル採用、アルムナイ採用など

新しい手法に加え、以下のような採用手法も、日本の企業で広く活用されています。

リファーラル採用

リファーラル採用とは、社員からの紹介によって新たな人材を採用する手法です。社員のネットワークを活用しながら、人柄や能力を事前に把握した上で人材を確保できるのがメリットです。

一方で、社員のモチベーションを高め、継続的に協力を得ることが課題となります。紹介制度の整備や、インセンティブの付与なども検討する必要があります。

アルムナイ採用

アルムナイ採用は、過去に自社に在籍していた人材を再雇用する手法です。社風や業務内容を理解している人材を受け入れられるため、ミスマッチリスクが低くなります。

ただし、対象者が限定されることから大量採用には不向きです。また、既存社員の反発を招かないよう、適切な制度設計と運用が求められます。

人材派遣の活用

人材派遣会社から一時的に人材を借り受ける方法も、日本の企業で広く利用されています。人材不足に対処したり、繁閑期の人員調整を行ったりする際に、柔軟な対応が可能となります。

派遣社員の給与や社会保険の手続きは派遣会社が行うため、企業側の負担が軽減されるメリットがあります。一方で、派遣社員を自社の社員として長期的に育成することはできません。

インターンシップの実施

新卒採用においては、インターンシップ制度の活用も有効な手段の一つです。学生に一定期間の実務経験を提供することで、企業と学生の相性を確かめられます。

企業側は学生の適性を見極められる一方、学生側も社風や業務内容を体感できるため、ミスマッチリスクが低減されます。ただし、インターンの受け入れ体制を整備する必要があり、一定の手間がかかります。

ヘッドハンティングの利用

ヘッドハンティングとは、特定の高度な専門スキルを持つ人材を、外部から積極的に引き抜く採用手法です。経営幹部や高度IT人材の確保において、ヘッドハンティング会社のサービスを利用するケースが増えています。

ヘッドハンターが持つ人脈を活用できるメリットがある一方、高額な手数料が発生するデメリットもあります。費用対効果を十分に検討する必要があります。

以上が、日本の企業で広く利用されている主な採用手法の概要です。求職者ニーズの多様化や売り手市場への移行など、採用を取り巻く環境変化に対応するため、新しい手法の積極的な取り入れが求められています。

採用手法の選び方 – 課題に合わせて最適な手段を

さまざまな採用手法の中から、自社に最適なものを選ぶためには、まず採用課題を明確にする必要があります。特に以下の3点を意識しましょう。

採用コストの確認

採用活動にかけられるコストを事前に把握しましょう。求人広告や人材紹介サービスなどは、一定の費用が発生します。一方、ハローワークやSNS、リファーラル採用などは低コストで実施可能です。

コストを抑えたい場合は、無料で利用できる手法を中心に検討するのがよいでしょう。ただし、低コストであっても効果が期待できない場合は、本末転倒になりかねません。費用対効果を総合的に勘案する必要があります。

スピード感の重視度

人員の補充が急がれる場合は、スピーディーな採用活動が求められます。この点では、人材紹介サービスやアルムナイ採用、ダイレクトリクルーティングなどが有効でしょう。

一方で、中長期的な視点から計画的に人材を確保したい場合は、自社Webサイトの整備やSNSの活用、インターンシップの実施などを検討するとよいでしょう。求職者との関係性を大切にしながら、着実に採用活動を進められます。

ミスマッチリスクの低減

採用後の早期離職を防ぐためには、ミスマッチリスクの低減が不可欠です。この観点からは、リファーラル採用やアルムナイ採用、インターンシップ、カジュアル面談などが有用な手段となります。

求職者の人となりや適性を事前に把握でき、企業と求職者の相性を確かめやすくなります。ただし、これらの手法には一長一短があるため、単独で採用活動を行うよりも、他の手法と組み合わせて活用することをおすすめします。

このように、企業が直面する課題や優先順位は様々です。求める人材像や、コストとスピード感のバランスなどを総合的に勘案し、複数の採用手法を組み合わせることが肝心です。

採用手法の組み合わせ例

採用手法を単独で活用するよりも、複数の手法を組み合わせることで、より効果的な採用活動が期待できます。ここでは、具体的な組み合わせ例をいくつかご紹介します。

大量採用を見据えた場合

  • 求人広告の活用
  • ハローワークの活用
  • 合同企業説明会への出展
  • SNSを活用したブランディング

大量の人材を確保したい場合は、まず幅広い層への露出が重要です。求人広告やハローワーク、合同企業説明会を活用することで、多くの求職者へのアプローチが可能になります。

その上で、SNSを活用して自社の魅力を発信し続けることで、ブランディングと採用の両立を目指します。求職者の関心を惹きつけ、応募への動機付けにつなげましょう。

優秀な人材の確保を目指す場合

  • ダイレクトリクルーティング
  • ヘッドハンティング
  • リファーラル採用の活用
  • カジュアル面談の実施

優秀な人材を的確に発掘するためには、ダイレクトリクルーティングやヘッドハンティングが有効です。求職活動中の人材だけでなく、パッシブな層にもアプローチできます。

さらに、リファーラル採用を組み合わせることで、社員の人脈からも優秀な候補者を発掘できるでしょう。カジュアル面談を経て、求職者とのミスマッチリスクを低減しつつ、良好な関係性を構築することをおすすめします。

新卒採用を強化したい場合

  • 自社Webサイトの整備
  • 大学の就職課への求人票提出
  • インターンシップの導入
  • 合同企業説明会への出展

新卒採用においては、自社Webサイトを整備し、企業の魅力を詳しく発信することが重要です。大学の就職課への求人票提出も欠かせません。

加えて、インターンシップの導入を検討しましょう。学生と企業の相性を確かめられるだけでなく、企業理解を深める効果も期待できます。合同企業説明会への出展も、効果的な手段となるでしょう。

このように、目的や課題に合わせて複数の採用手法を組み合わせることで、シナジー効果が生まれます。コストとリソースを有効活用しながら、着実な採用活動を展開することが可能になります。

採用活動を成功に導くポイント

最後に、採用活動を成功に導くためのポイントを3点ご紹介します。

求める人材像の明確化

どのような人材を求めているのかを明確にすることが、成功への第一歩です。現場の声を丁寧に拾い上げ、求める人物像を具体化しましょう。

単に「優秀な人材が欲しい」といった漠然としたイメージではなく、年齢層や経歴、スキル、人柄など、細かな条件設定が重要になります。こうした条件を満たすペルソナを設定することで、効果的な採用アプローチが見えてくるはずです。

採用プロセスの可視化

求人募集から内定通知に至るまでの一連の流れを「採用フロー」として可視化し、分析・改善を重ねることが大切です。

具体的には、各工程の応募者数や、次の段階に進んだ人数の割合(歩留まり率)などのデータを収集・管理します。課題が見えてくれば、その原因を分析し、対策を講じることができます。PDCAサイクルを確立することで、採用活動の質が着実に向上していくはずです。

複数の採用手法の組み合わせ

先に紹介した通り、単一の採用手法のみに依存するのはリスクが高くなります。求める人材像や採用課題、コストとスピードのバランスなどを総合的に勘案し、複数の手法を組み合わせることが賢明です。

各手法の長所を最大限に活かしながら、短所を補完し合うことで、シナジー効果が生まれます。求職者ニーズに合った最適な採用活動を実現できるはずです。

日本の採用環境は大きく変化しており、企業には新しい発想と柔軟な対応が求められています。本記事で解説した採用手法の特徴と選び方、効果的な組み合わせ例を参考に、自社に合った戦略を立案してみてはいかがでしょうか。今こそ、新しいアプローチに果敢に挑戦する好機なのかもしれません。