企業の成長を左右する「人材要件」と「コンピテンシー」の重要性
本記事では、企業の成功に大きく影響を与える「人材要件」と「コンピテンシー」の概念について、その定義、歴史的背景、活用方法など、様々な角度から詳しく解説します。人材マネジメントにおけるこれらの概念の重要性を理解し、自社に最適な形で取り入れることで、組織の持続的な発展を実現できるでしょう。
人材要件とは
企業が求める人材像を明確に定義することを「人材要件」と呼びます。各社には固有の経営理念、ビジョン、戦略があり、それらを実現するために必要な人材の条件、つまり人材要件を明らかにする必要があります。
人材要件の構成要素
人材要件は、以下の3つの要素から構成されています。
意識・態度
期待される成果を生み出すために必要な、社員に求められる意識や態度が含まれます。例えば、お客様重視の姿勢、チャレンジ精神、倫理観などです。
能力
- 思考・行動能力: 問題解決力、創造力、判断力など、成果を上げるための思考力や行動力が含まれます。
- ビジネススキル: 業務遂行に必要な汎用スキルや専門スキルが含まれます。
経験
これまでの職務経験や、特定の分野における実績などが含まれます。
人材要件の重要性
明確な人材要件を設定することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 採用活動での優秀な人材の見極めが可能になります。
- 社員の育成や評価の際の基準が明確になり、効果的な人材マネジメントが可能になります。
- 企業文化や価値観の共有が促進され、組織の一体感が高まります。
コンピテンシーとは
コンピテンシー(Competency)は、「特定の業務で高い業績や成果を上げるために必要な知識、技術、資質を総称した行動特性」を指します。つまり、優れた成果を生み出すための「行動の源泉」を意味する概念です。
コンピテンシーの誕生と発展
コンピテンシーの概念は、1970年代にハーバード大学のデイビッド・マクレランド教授によって提唱されました。マクレランド教授は、同じ能力を持つ外交官でも業績に差があることから、高業績者に共通する行動特性を研究し、コンピテンシーの考え方を確立しました。
その後、1990年代にスペンサー夫妻によってコンピテンシー・ディクショナリーがまとめられ、世界中の企業で人材マネジメントに活用されるようになりました。
コンピテンシーの構造
コンピテンシーは、「氷山モデル」と呼ばれる構造を持っています。氷山の一角に当たる部分が、スキルや知識、態度などの「表層的な能力」です。一方、氷山の大部分を占める部分が、動機、価値観、行動特性などの「潜在的な要素」となります。
この潜在的な部分こそが、表層的な能力を発揮させ、高い成果につながる源泉となるのです。
人材要件とコンピテンシーの関係性
人材要件とコンピテンシーは密接な関係にありますが、以下のような違いがあります。
- 人材要件は、企業が求める人材像を定義したものです。一方、コンピテンシーは、高い成果を上げるための行動特性を指します。
- 人材要件には、意識・態度、能力、経験が含まれますが、コンピテンシーは主に「能力」に関連する概念です。
- 人材要件は企業側からの視点で定義されますが、コンピテンシーは実際の高業績者の行動から導き出されます。
つまり、企業は人材要件を設定した上で、その要件を満たすために必要なコンピテンシーを明らかにする必要があるのです。両者を上手く組み合わせることで、より効果的な人材マネジメントが可能になります。
人材要件の設定方法
人材要件を適切に設定するには、以下の手順が一般的です。
1. 経営理念・ビジョンの確認
まずは、自社の経営理念やビジョン、中長期的な目標を改めて確認します。これらを実現するための人材像を明らかにすることが、人材要件設定の出発点となります。
2. 現状分析と課題の抽出
次に、現在の人材構成や業績、組織風土などを分析し、課題を洗い出します。例えば、「若手社員のモチベーション低下」「マネジメント力の不足」など、人材面での課題が浮かび上がってくるはずです。
3. 人材要件の検討と設定
抽出した課題を解決するために必要な人材像を検討し、具体的な人材要件を設定します。この際、意識・態度、能力、経験の3つの観点から要件を定義することが重要です。
4. 社内浸透と見直し
設定した人材要件を社内に浸透させ、実際の採用や育成、評価の場面で活用します。また、定期的に要件の見直しを行い、環境の変化に合わせて適宜修正を加えることが肝心です。
コンピテンシーの抽出と活用
コンピテンシーを効果的に活用するためには、まず自社に適したコンピテンシーを抽出する必要があります。
コンピテンシーの抽出方法
1. ハイパフォーマーへのインタビュー
自社で実際に高い業績を上げている社員(ハイパフォーマー)にインタビューを行い、その行動特性を明らかにします。
2. 理想像からの逆算
企業が理想とする人材像から逆算して、求められるコンピテンシーを抽出します。
3. ハイブリッド型
ハイパフォーマーの行動特性と、理想像から導き出したコンピテンシーを組み合わせた「ハイブリッド型」のモデルを作成します。
4. コンピテンシー・ディクショナリーの活用
既存のコンピテンシー・ディクショナリーから、自社に適したものを選択して活用します。
コンピテンシーの活用シーン
抽出したコンピテンシーは、以下のような場面で活用することができます。
採用面接
コンピテンシーに基づいた質問を行うことで、自社に合った人材を見極めることができます。
人材育成
社員に求められるコンピテンシーを明確にし、研修や OJT を通じてコンピテンシーの習得を促進します。
人事評価
業績だけでなく、コンピテンシーの発揮度合いも評価対象とすることで、より公平な評価が可能になります。
また、コンピテンシーの運用においては、社内への浸透と定期的な見直しが重要となります。環境の変化に合わせてコンピテンシーを更新し、従業員に対する教育を継続的に行うことが肝心です。
人材要件とコンピテンシーの活用事例
実際に、様々な企業が人材要件やコンピテンシーを活用し、成果を上げています。
採用活動での活用事例
ソニー株式会社
ソニーは1995年から新卒採用にコンピテンシー評価を導入しています。この評価方法は、従来の学歴や職歴に基づく評価から、実際の業務において高い成果を上げるために必要な行動特性に焦点を当てるものです。コンピテンシー評価は、特定の職務で優れたパフォーマンスを発揮するために求められる能力や行動を明確にし、採用プロセスにおけるミスマッチを減少させることを目的としています。
ソニーのコンピテンシー評価の利点
- 適材適所の人材配置: コンピテンシー評価によって、企業が求める行動特性を持つ候補者を特定できるため、より適切な人材配置が可能になります。これにより、業務の効率性や生産性が向上します。
- 評価基準の明確化: 従来の評価方法では主観的な要素が強かったのに対し、コンピテンシー評価は具体的な行動基準に基づいているため、評価が客観的かつ透明になります。これにより、従業員の納得感が高まり、モチベーションの向上にも寄与します。
- 人材育成への活用: コンピテンシー評価は採用だけでなく、その後の人材育成にも活用されます。新入社員がどのような行動特性を強化すべきかを明確にすることで、効果的な研修プログラムを設計することができます。
- 長期的な成果向上: コンピテンシー評価によって選ばれた人材は、自社の文化や価値観に合致した行動を取る傾向があり、これが長期的な業績向上につながります1。
ソニーの採用戦略と企業文化
ソニーは「個を尊重する」という企業文化を基盤にしており、多様性と個性を重視しています。この文化は、社員が自らの能力を最大限に発揮できる環境を提供することに寄与しています。具体的には、ソニーは「Special You, Diverse Sony」という人材理念を掲げており、これに基づいて多様な人材を採用し、育成しています。
また、ソニーのジョブグレード制度は、社員の役割に基づいて評価を行う仕組みです。この制度では、過去の実績や将来の期待ではなく、「現在の役割」に焦点を当てて評価が行われます。これにより、社員は自分の役割に対して公平な処遇を受けることができ、モチベーションが向上します。
日本企業におけるコンピテンシー評価の実践
日本では1990年代後半からコンピテンシー評価が導入され始め、多くの企業がこの手法を採用しています。例えば、楽天グループ株式会社では、半年ごとに全従業員がコンピテンシーとパフォーマンス(成果)の目標を立てる仕組みを取り入れています。この制度では、コンピテンシー評価によって月額給与が決まり、パフォーマンス評価によって業績賞与が決まるため、勤続年数にかかわらずステップアップできる体制が整っています。
総じて、ソニーの新卒採用におけるコンピテンシー評価は、企業の戦略的な人材育成と多様性の推進に寄与しており、今後もその重要性は増していくと考えられます。
人材育成での活用事例
アサヒビール株式会社
アサヒビール株式会社は、コンピテンシー評価を通じて組織と個人の成長を促進する取り組みを行っています。この評価は、社員の能力やパフォーマンスを測定し、企業全体の戦略に沿った人材育成を促進するための重要な手段です。
コンピテンシー評価の成果
- 人材育成の強化: コンピテンシー評価により、社員は自分の強みや改善点を理解しやすくなり、個々のキャリア開発が促進されます。これにより、組織全体のパフォーマンス向上につながります1。
- エンゲージメント向上: 評価制度の透明性と公平性により、社員のエンゲージメントが高まり、2023年度には持続可能なエンゲージメントスコアが80点に達しました。
- 多様性とインクルージョン: ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)を重視し、コンピテンシー評価は多様なバックグラウンドを持つ社員が活躍できる環境づくりに寄与しています。特に経営層における女性比率の向上を目指しています。
- リーダーシップ開発: 経営者人材育成プログラム(GLDP)を通じて、次世代リーダーの育成が進められ、組織全体の競争力が向上しています。
- 業績向上への貢献: コンピテンシー評価によって得られたデータは、業績向上にも寄与しており、一人当たり売上金額や当期利益が増加しています。
次世代リーダー育成プログラム
アサヒビールは、経営課題に対処するための次世代リーダー育成プログラムを実施しています。このプログラムでは、他流試合型研修や管理職層向けプログラムを通じて、ビジネススキルを高め、経営変革室や担当役員への事業提案が行われています。これにより、テストマーケティングがスタートするなど、具体的な成果が上がっています。
このように、アサヒビール株式会社はコンピテンシー評価を通じて、持続的な成長を目指し、企業価値の向上を図っています。
人事評価での活用事例
重電機大手のGE(ゼネラル・エレクトリック)
GE(ゼネラル・エレクトリック)は、従来の業績評価からコンピテンシー評価へとシフトし、社員の成長と組織全体のパフォーマンス向上を目指しています。この変革は、2016年に「9ブロック」評価制度を廃止し、「パフォーマンス・ディベロップメント(PD)」という新しい制度を導入したことに起因しています。
コンピテンシー評価の重要性
GEがコンピテンシー評価を重視する理由は、従来の評価方法が社員の成長を妨げる可能性があると認識したからです。従来の「9ブロック」モデルでは、社員は他者との比較によって評価され、その結果が報酬や昇進に直結していました。このアプローチは、社員が失敗を恐れたり、リスクを取ることをためらう原因となり、イノベーションを阻害する要因となっていました。
新しい評価制度の特徴
- ノーレイティング: 点数やランク付けを行わず、社員一人ひとりの成長に焦点を当てます。これにより、社員は自分自身の成長を実感しやすくなります。
- タッチポイント: 定期的な1対1の面談を通じて、上司と部下がリアルタイムでフィードバックを行います。これにより、社員は失敗を恐れず挑戦する姿勢が育まれます。
- コンピテンシーの明確化: 「GE Beliefs」と呼ばれる行動指針に基づいて、求められるコンピテンシーを明確化しています。
昇進制度への影響
GEの昇進制度では、コンピテンシー評価が重要な役割を果たしています。社員の能力開発を促進することが主な目的であり、昇進候補者は上司との定期的な「タッチポイント」を通じてフィードバックを受けます。このプロセスにより、上司は部下の能力やポテンシャルを深く理解し、それに基づいて昇進候補者を選定することが可能になります。
組織文化の変革
GEのコンピテンシー評価への移行は、単なる評価制度の変更ではなく、組織文化そのものの変革を意味しています。社員一人ひとりが持つ潜在能力を最大限に引き出し、企業全体としても持続的な成長を目指す姿勢が強化されています。このアプローチは、単なる業績主義から脱却し、より包括的で持続可能な人材育成戦略へと進化しています。
人材要件とコンピテンシーの導入を成功させるポイント
人材要件やコンピテンシーを導入する際のポイントをいくつかご紹介します。
1. 経営層の理解と関与
人材要件やコンピテンシーの導入は、企業の根幹に関わる重要な取り組みです。そのため、経営層の理解と関与が不可欠となります。導入の意義や目的、プロセスを経営層に十分に説明し、サポートを得ることが大切です。
2. 社内浸透と教育
導入後は、人事部門だけでなく全社員に対する教育が必要不可欠です。人材要件やコンピテンシーの意味、活用方法を周知し、社内に浸透させることが重要です。
3. 運用体制の構築
人材要件やコンピテンシーを適切に運用するための体制を構築しましょう。評価者の育成、評価プロセスの標準化、フィードバックの仕組み作りなど、様々な取り組みが求められます。
4. 定期的な見直しと改善
一度導入したからといって終わりではありません。環境の変化に合わせて、人材要件やコンピテンシーを定期的に見直し、必要に応じて改善を加えていくことが肝心です。
人材要件とコンピテンシーは、企業の持続的な成長を実現するための重要な概念です。適切な導入と運用を通じて、自社の強みを最大限に引き出すことができるでしょう。
人材要件設定の実践的なアプローチ
人材要件を適切に設定するためには、以下のようなアプローチが有効です。
1. ジョブ分析の実施
まずは、各職務における具体的な業務内容やタスクを洗い出す「ジョブ分析」を行います。この作業を通じて、その職務で期待される成果や貢献領域が明確になります。
2. 人材タイプの特定
次に、ジョブ分析の結果から、その職務を遂行するために求められる人材のタイプを特定します。例えば、「営業職」であれば「対人折衝力に長けたタイプ」「分析力に優れたタイプ」など、複数のタイプが想定されるでしょう。
3. 人材ポートフォリオの検討
特定した人材タイプごとに、意識・態度、能力、経験の観点から人材要件を設定します。そして、それらを組み合わせた「人材ポートフォリオ」を作成します。このポートフォリオが、その職務における理想的な人材像となります。
4. 人材要件の優先順位付け
設定した人材要件は多岐にわたる可能性があります。そこで、その職務での重要度に応じて人材要件に優先順位を付けることが肝心です。この作業を通じて、本当に重要な要件が明確になります。
このようなアプローチを取ることで、ぶれのない人材要件を設定することができます。人材要件設定は、採用や育成、評価の基盤となる重要な作業なのです。
コンピテンシーモデルの構築アプローチ
一方、コンピテンシーモ デルの構築においても、様々なアプローチが存在します。ここでは代表的な3つのアプローチについて解説します。
1. 実在型モデル
最も一般的なアプローチが「実在型モデル」です。この手法では、自社で実際に高い業績を上げているハイパフォーマー(優秀社員)をモデルとして、その行動特性からコンピテンシーを抽出します。
実在型モデルのメリットは、現実に即したコンピテンシーを構築できる点にあります。ただし、モデルとなったハイパフォーマーの個人的な特性に偏る可能性があり、他の社員でも獲得可能なコンピテンシーなのかを確認する必要があります。
2. 理想形モデル
理想形モデルでは、企業が理想とする人材像から逆算して、求められるコンピテンシーを特定します。企業理念や事業戦略などを踏まえて策定するため、実在型モデルに比べて作成が容易です。
一方で、理想を追い求めすぎると、コンピテンシーのハードルが現場の社員から乖離してしまう恐れがあります。レベル設定には注意が必要です。
3. ハイブリッド型モデル
ハイブリッド型モデルは、実在型と理想形の長所を組み合わせたアプローチです。ハイパフォーマーから抽出したコンピテンシーに、理想像から導き出した要素を加えることで、より実用的なモデルを構築できます。
コンピテンシーモデルの構成要素
構築アプローチを決めたら、次はコンピテンシーモデルの具体的な構成要素を検討します。一般的なコンピテンシーモデルは、以下の3つの要素から成り立っています。
1. コンピテンシー群
優れた業績につながる行動特性の集まりです。「課題発見力」「主体性」「創造力」など、複数のコンピテンシーが含まれます。
2. コンピテンシー定義
各コンピテンシーの定義を、簡潔かつ具体的に記述したものです。「課題発見力」であれば、「現状に疑問を持ち、改善課題を見つけられる力」などと定義します。
3. 行動指標
コンピテンシーを発揮している状態を、具体的な行動例で示したものが行動指標です。例えば「課題発見力」なら、「業務の中で疑問に思ったことを上げている」「新しい取り組みのアイデアを出している」などが挙げられます。
このように、コンピテンシー群、定義、行動指標を組み合わせることで、分かりやすくかつ具体性のあるコンピテンシーモデルを構築することができます。
コンピテンシーの評価方法
構築したコンピテンシーモデルを実際に活用するには、適切な評価方法が不可欠です。ここでは、代表的な評価方法をご紹介します。
1. 多面評価
コンピテンシーの評価には、複数の評価者による「多面評価」が有効とされています。上司評価に加えて、部下評価や同僚評価を取り入れることで、より公平で客観的な評価が可能になります。
2. 行動観察面接
採用面接の場面では、「行動観察面接」がコンピテンシーの評価に適しています。過去の具体的な行動事例を尋ねることで、応募者のコンピテンシーを把握できます。
3. アセスメントツール
コンピテンシーの評価には、専門のアセスメントツールを活用するのも一つの方法です。事前に設定された質問に回答することで、コンピテンシーの保有レベルを測定できます。
4. 評価者育成
いずれの評価方法を採用する場合でも、評価者の育成が欠かせません。コンピテンシーの概念や評価基準を十分に理解させ、評価のブレを防ぐ必要があります。
適切な評価方法を選択し、評価プロセスを標準化することで、コンピテンシーを効果的に活用することができるでしょう。
コンピテンシーの階層別活用
コンピテンシーは、職位や役割に応じて活用方法を変えることが重要です。ここでは、階層別のコンピテンシー活用方法をご紹介します。
1. 新入社員・若手社員
新入社員や若手社員に対しては、基礎的なコンピテンシーの習得が目標となります。「課題発見力」「主体性」「協調性」など、業務を円滑に遂行するために必要なコンピテンシーを中心に研修やOJTを実施します。
2. 中堅社員
中堅社員になると、マネジメント力の育成が重要になってきます。「部下育成力」「リーダーシップ」「戦略的思考力」などのコンピテンシーを評価し、階層別研修などで意識付けを行います。
3. 管理職・幹部候補
管理職や幹部候補となると、組織をリードするための高度なコンピテンシーが求められます。「変革力」「ビジョン構築力」「意思決定力」などを評価の対象とし、選抜や育成を行います。
4. 経営幹部
最高経営層においては、企業の存続と発展を左右するコンピテンシーが問われます。「革新力」「リスクテイク力」「人間力」などを重視し、後継者育成にも活かします。
このように、コンピテンシーは階層ごとに求められる内容が変わってきます。一人ひとりの成長段階に合わせて、適切なコンピテンシーを設定し、計画的な育成を行うことが肝心です。
コンピテンシーと職能資格制度の違い
コンピテンシーは、職能資格制度と並んで人事評価の基準として活用されています。しかし、両者には明確な違いがあります。
職能資格制度とは
職能資格制度とは、従業員の「能力」や「スキル」、「知識」といった要素を評価基準とする人事制度です。一定の要件を満たせば、その職能等級に応じた処遇が受けられます。
職能資格制度のメリットは、中長期的な人材育成が可能な点にあります。一方で、年功序列の評価になりがちで、人件費が高額になるというデメリットもあります。
コンピテンシー評価の特徴
コンピテンシー評価は、「行動特性」そのものを評価の対象とします。つまり、スキルや知識の発揮度合いを重視するのがポイントです。
コンピテンシー評価のメリットは、適材適所の人材配置が可能になる点や、従業員の納得性が高まる点にあります。一方、導入や運用の負担が大きいことがデメリットとされています。
併用による相乗効果
職能資格制度とコンピテンシー評価には一長一短があります。そのため、両者を上手く組み合わせて運用することで、より効果的な人事制度を構築できます。
例えば、職能資格制度で「能力」を評価し、コンピテンシー評価で「行動」を評価するなど、役割分担を明確にすることで相乗効果が期待できます。人材マネジメントに一石を投じる取り組みと言えるでしょう。
コンピテンシーの導入におけるポイント
コンピテンシーを効果的に導入・運用するためのポイントをご紹介します。
1. 経営層の理解と関与
コンピテンシーの導入は、企業文化や風土に大きな影響を与える重要な取り組みです。そのため、経営層の理解と関与が不可欠となります。導入の意義や目的、プロセスを経営層に十分に説明し、サポートを得ることが肝心です。
2. 社内浸透と教育
導入後は、人事部門だけでなく全社員に対する教育が必須です。コンピテンシーの意味や活用方法を周知し、社内に浸透させることが重要です。研修やeラーニングなど、様々な手段を用いて継続的に教育を行いましょう。
3. 運用体制の構築
コンピテンシーを適切に運用するための体制を構築する必要があります。評価者の育成、評価プロセスの標準化、フィードバックの仕組み作りなど、様々な取り組みが求められます。
4. 定期的な見直しと改善
一度導入したからといって終わりではありません。環境の変化に合わせて、コンピテンシーを定期的に見直し、必要に応じて改善を加えていくことが肝心です。見直しのサイクルを決めて、PDCAサイクルを回すことが大切です。
このようなポイントに留意しながら、コンピテンシーの導入を進めることで、企業の持続的な成長を実現できるでしょう。