リスキリングスキルの重要性と習得の仕方 – デジタル時代の波に飲み込まれないために
変革する時代の中で生き残るために
私たちが生きる現代社会は、テクノロジーの進化に伴い、目まぐるしい変化を遂げています。AIやIoTをはじめとするデジタル技術の発達は、従来の産業構造や就業環境に大きな変革をもたらしています。このような時代の流れに乗り遅れないためには、社会人一人ひとりが新しいスキルを身につけ続ける必要があります。そこで注目されているのが「リスキリング」という概念です。
リスキリングとは、従来の業務から一旦離れ、新たな職種や業務に就くために必要な知識やスキルを習得することを指します。単なる「学び直し」ではなく、デジタル社会で求められる専門性を獲得し、キャリアの幅を広げることが目的なのです。本記事では、リスキリングの重要性と具体的な取り組み方、習得が推奨されるスキルなどについて解説していきます。
自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング
本書は、現在注目されている「リスキリング」がわかる&実践できる本。これからリスキリングを実践しようとしている人だけでなく、リスキリングという言葉の意味やこれからのビジネストレンドを知りたい人、ならびにリスキリングを自社に導入したいと考えている企業担当者にも役立つ一冊です。
リスキリングが注目される背景
自動化の進展による雇用の変化
リスキリングが注目される背景には、AIやロボット技術の進化による自動化の進展があります。2013年にオックスフォード大学の研究チームが発表した論文によると、今後10〜20年の間にアメリカの総雇用者数の約47%の仕事が自動化によって失われるリスクがあるとされています。
この予測から10年が経過した現在、既に自動化が進んでいる職種も多数見受けられます。日本はデジタル先進国と比べて遅れをとっている面もありますが、いずれ同様の現象が起こることが予想されます。
デジタル化の加速による新しい雇用の創出
一方で、デジタル化の進展により、新たな産業が次々と生まれています。世界経済フォーラムの予測では、2030年までに9,700万件の新規雇用が創出されるとしています。しかし、これらの雇用に就くためには、従来の労働者が保有するスキルでは不十分です。成長分野で求められる専門性を身につけるためのリスキリングが不可欠となるのです。
長寿化社会への対応
さらに、リスキリングの必要性を高める要因として、人生100年時代の到来があげられます。就労期間が長期化する中で、一度身につけたスキルだけでは通用しなくなる可能性が高まっています。定年後のセカンドキャリアを見据えた場合にも、新しい分野への挑戦が求められるでしょう。
このように、社会構造の変化に伴い、リスキリングへのニーズが高まっているのが現状です。企業はもちろん、個人としても、時代に合わせてスキルを磨き続ける姿勢が重要となっています。
リスキリングを推進する取り組み
政府によるリスキリング支援策
日本政府は、デジタル人材の育成と雇用の確保を目的に、リスキリングの取り組みを後押ししています。2022年10月の所信表明演説で、岸田総理は「個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じる」と発言しました。
具体的な支援策としては、以下のようなものがあります。
- リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業
- リスキリング講座の受講費用の一部を補助
- キャリア相談や転職支援も実施
- 教育訓練給付制度
-
- 指定された民間の資格講座を受講・修了した場合、その費用の一部が給付される制度
-
このように、国を挙げてリスキリングを支援する体制が整いつつあります。個人としても、こうした制度を有効活用することが求められます。
企業によるリスキリング施策
リスキリングは、企業にとっても喫緊の課題となっています。デジタル化に対応するための人材確保が求められる一方で、優秀な人材の流出リスクもあります。そのため、社内でリスキリングを推進し、既存社員のスキルアップを図る動きが活発化しています。
代表的な取り組みとしては、以下のようなものがあげられます。
- eラーニングシステムの導入
- 社員が時間や場所を選ばずにリスキリング講座を受講できる環境を整備
- 社内インターンシップ制度
- 異なる部門への一時的な配属を通じて、新しいスキルを習得できる仕組み
- 社外講師によるOJT研修
- 最新のデジタル技術を実践的に学べる研修プログラムの提供
このように、企業による主体的なリスキリング推進は、社員の定着や生産性向上にもつながります。個人としても、こうした機会を積極的に活用することが重要です。
リスキリングで習得が推奨されるスキル
それでは、具体的にどのようなスキルを身につける必要があるのでしょうか。世界経済フォーラムが発表した「2025年に必要なトップ10スキル」には、以下のようなものが挙げられています。
問題解決力
デジタル時代を生き抜くためには、単なる知識の習得だけでなく、課題を発見し、創造的な解決策を見出す力が不可欠です。分析力、クリティカルシンキング、想像力などがこの分野に含まれます。
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自己マネジメント力
環境の変化に柔軟に対応するためには、自らを統制し、継続的に学習を続ける力が求められます。アクティブラーニングの姿勢、ストレス耐性、適応力などが重視されています。
コラボレーション力
単独で全てを完結させるのではなく、他者と協力しながら成果を上げていく力も重要視されます。リーダーシップ、コミュニケーション力、チームワークなどがこの分野に含まれます。
デジタルリテラシー
テクノロジーを理解し、適切に活用できる能力は、デジタル社会を生き抜く上で不可欠です。プログラミング、データ分析、クラウドコンピューティングなどの専門スキルが含まれます。
上記はあくまでも一例ですが、このようにリスキリングで求められるスキルは多岐にわたります。個人のキャリアプランに合わせて、重点的に習得すべきスキルを選択することが大切です。
リスキリングに取り組む個人の方法
それでは、個人としてリスキリングにどのように取り組めばよいのでしょうか。ここでは、効果的な進め方について解説します。
リスキリングの目的を明確化する
まずは、なぜリスキリングが必要なのか、その目的を明確化することが重要です。単に新しいスキルを身につけるだけでは意味がありません。将来的にどのような仕事に就きたいのか、キャリアビジョンを描くことから始めましょう。
具体的な目的を設定することで、習得すべきスキルの優先順位もはっきりしてきます。例えば、ITベンダー企業への転職を目指す場合は、プログラミングスキルを中心に学習することになるでしょう。
自分に適した学習方法を選択する
次に、自分に合った学習方法を見つける必要があります。リスキリングには様々な手段があり、一人ひとりに合ったスタイルが異なります。
- 民間の資格講座やスクーリング
- 体系立ったカリキュラムで効率的に学習できる
- 費用がかかる場合もあり、時間の制約がある
- オンライン講座・eラーニング
- 時間や場所を選ばず柔軟に学習できる
- 自己学習力と継続力が必要
- 実務を通じた実践的な学習
- 社内インターンシップなどを活用
- 即戦力としてのスキルが身につく
自分のライフスタイルや学習スタイルに合わせて、最適な手段を組み合わせることが大切です。また、職場や家庭環境に合わせて、学習時間を確保することも欠かせません。
モチベーションを維持する工夫
リスキリングは決して簡単なことではありません。新しい分野への挑戦は、ストレスを伴うことも多いでしょう。そのため、モチベーションを維持し続けることが大切になります。
具体的な工夫としては、以下のようなことが考えられます。
- 小さな目標を設定し、達成感を味わう
- 長期的な目標だけでなく、短期的な小目標も設けることで、継続する原動力となる
- 仲間を作り、互いに刺激し合う
- オンラインコミュニティに参加するなどして、同じ目標を持つ仲間と切磋琢磨する
- 習得したスキルを実践の場で活かす
- 学んだことを実務に生かすことで、さらなる学習意欲が湧いてくる
リスキリングは決して楽な道のりではありませんが、着実に一歩ずつ進めていけば、必ず報われる日が来るはずです。
日本企業がリスキリングを推進する上での課題
リスキリングへの取り組みが進む一方で、日本企業が直面している課題もあります。一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブが指摘する主な課題は以下の3点です。
働き方の課題
リスキリングは本来、就業時間内に行うべき「業務」とされています。しかし、多くの企業では、従業員に対して自主的な学習を期待しているに過ぎません。業務時間内に学習する環境が整備されていないのが現状です。
処遇の課題
リスキリングを通じて新しいスキルを身につけても、それが昇給や昇格につながらない場合が多いようです。優秀な人材の流出を防ぐためにも、適切な処遇が求められています。
学習への意識の課題
日本企業には、学習を評価する文化が根付いていないという指摘もあります。終身雇用制の下では、学習の有無に関わらず同じ待遇が受けられるため、学ぶインセンティブが働きにくい環境にあったのです。
このように、日本企業にはリスキリングを推進する上での様々な障壁があります。企業文化や風土の改革と併せて、従業員一人ひとりの意識改革も必要不可欠といえるでしょう。
リスキリングに取り組む上での注意点
リスキリングへの取り組みは、それ自体が目的化してはいけません。本来のリスキリングの目的は、新しい分野で活躍できるようになることです。そのため、以下のような点に留意する必要があります。
スキルの実践の場を確保する
リスキリングで身につけたスキルを発揮できる場がなければ、無駄な努力となってしまいます。企業による配置転換の機会の提供や、個人による転職活動など、実践の場を事前に用意しておくことが大切です。
リスキリングとスキルアップの違いを理解する
リスキリングとは、新しい分野に挑戦するためのスキル習得を指します。一方で、現在の業務で活かせるスキルを高めることは「スキルアップ」と呼ばれます。両者を混同せず、目的に合わせて適切に取り組む必要があります。
過去の経験を活かす視点を忘れない
リスキリングは全くの新しい分野に挑戦することを意味しますが、過去の経験や強みを全く活かせないわけではありません。自身の強みを再認識し、それをどのように新しい分野で生かせるかを考えることも重要です。
リスキリングは、単なる学習活動ではありません。キャリアの幅を広げ、新たな可能性に挑戦する、大きな一歩となるはずです。そのプロセスにおいて、上記の点を意識しながら取り組むことが肝心です。
リスキリングを支援する制度・サービスの活用
リスキリングへの取り組みは、一人で孤軍奮闘するのは大変です。そ のため、様々な制度やサービスを上手く活用することが重要になります。ここでは、リスキリングを支援する主な制度やサービスについて解説します。
国や自治体による支援制度
リスキリング推進のため、国や自治体からも様々な支援策が用意されています。
経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
この事業では、リスキリング講座の受講費用の一部が補助されます。さらに、講座修了後に転職し一定期間就業を継続した場合、追加の補助金が支給されるなど、手厚い支援が用意されています。
厚生労働省の「教育訓練給付制度」
民間の資格取得講座を受講・修了した場合、その費用の一部が給付される制度です。ITパスポートや基本情報技術者試験対策講座なども対象となっています。
自治体による助成金制度
東京都の「DXリスキリング助成金」など、各自治体でも独自の助成金制度が用意されています。デジタル分野の職業訓練費用が対象となる場合が多くなっています。
民間のリスキリングサポートサービス
企業や個人向けに、リスキリングをサポートする民間サービスも増えてきました。
eラーニングプラットフォーム
「etudes」や「etudesPlus」などのeラーニングプラットフォームでは、リスキリング向けの多様な講座が用意されています。自社で教材を作成する手間も省けます。
オンラインスクール
「Aidemy」「キカガク」「Schoo」など、AIやデータ分析、プログラミングなどのデジタルスキルを効率的に習得できるオンラインスクールが多数登場しています。
リスキリングコミュニティ
「日本リスキリングコンソーシアム」のようなオンラインコミュニティでは、受講生同士で切磋琢磨しながら学習を進めることができます。
このように、公的機関や民間企業から様々な支援が用意されています。自分に合ったサービスを上手く組み合わせることで、リスキリングへの取り組みをスムーズに進めることができるでしょう。
リスキリングを成功に導く企業の取り組み事例
多くの企業がリスキリングに取り組んでいますが、その中でも特に注目すべき成功事例をいくつか紹介します。
AT&T
通信大手のAT&Tは、リスキリングの先駆的な取り組みを行った企業として知られています。2020年までに従業員10万人に対して10億ドルを投じ、以下の施策を実施しました。
- リスキリングを促進する環境整備
- キャリア開発支援ツールの提供
- オンライン学習コースの開発・提供
- 学習プラットフォームの提供
この結果、必要な技術職の81%を社内で確保できたほか、リスキリング参加者の評価や昇進率が大幅に上がったそうです。
日立製作所
日立製作所は、「デジタル対応力を持つ人材の強化」を掲げ、DXサービス事業「Lumada」の中核を担う3万人のデジタル人材育成に取り組みました。
独自の学習教材を開発し、グループ全従業員に対してDX研修を実施。さらに、「デジタルリテラシーエクササイズ」と呼ばれる4ステップのプログラムを用意し、体系的にデジタルスキルを身につける環境を整備しました。
富士通
富士通は、「ITカンパニーからDXカンパニーへ」の経営戦略の下、社員約13万人に対して5年間で5,000億円から6,000億円をリスキリングに投資する計画を立てています。
「Global Strategic Partner Academy」と呼ばれる独自の教育プログラムを開発し、世界中の従業員に最先端のデジタルスキルを学習できる場を提供しています。
このように、大手企業を中心に、リスキリングへの本格的な取り組みが始まっています。人材育成へのしっかりとした投資と、体系的な教育プログラムの用意が、成功の鍵を握っているようです。
中小企業におけるリスキリングの課題と対策
一方で、リスキリングへの取り組みが進んでいない中小企業も多くあります。その理由と対策について見ていきましょう。
中小企業がリスキリングに取り組みにくい理由
人的・財務的リソースの不足
大手企業とは異なり、中小企業では人員やリソースに余裕がありません。社員を一時的に業務から外して研修に参加させることも難しい状況です。
リスキリングに対する認知不足
リスキリングの重要性について、十分な認知が広まっていないためです。デジタル化の必要性自体を実感していない経営者も多いようです。
適切な研修機会の不足
社内で研修環境を整備するのは容易ではありません。一方で、中小企業向けの研修サービスが十分に整備されているわけでもありません。
中小企業向けのリスキリング支援策
上記のような課題に対して、以下のような支援策が検討されています。
助成金制度の拡充
東京都の「DXリスキリング助成金」に代表されるように、職業訓練費用への助成金制度が整備されつつあります。今後さらなる拡充が期待されます。
研修の共同実施
同業他社や異業種の企業と連携し、共同で研修を実施することで、コストを抑えられる可能性があります。
民間サービスの活用
eラーニングなどの民間サービスを上手く活用することで、低コストでリスキリングを進められる場合があります。
リスキリングは中小企業にとっても避けられない課題です。上記のような対策を講じながら、着実に人材育成に取り組んでいく必要があるでしょう。
リスキリングと関連する新しい概念
リスキリングに関連して、近年注目されている新しい概念があります。ここではその2つを紹介します。
グリーン・スキル
グリーン・スキルとは、環境保護や脱炭素社会の実現に向けて必要となるスキルを指します。再生可能エネルギーの設計や、環境影響評価などの専門性が含まれます。
日本政府が掲げる「GX(グリーントランスフォーメーション)」の実現に向けて、今後グリーン・スキルの需要が高まると予想されています。リスキリングの対象としても注目される分野です。
アンラーニング
アンラーニングとは、過去に身につけた知識やスキルの中で、時代に合わなくなったものを捨て去ることを指します。
AI時代においては、これまでの常識が通用しなくなる場合もあり、新しい発想を身につける必要があります。そのためには、旧来の価値観から脱却する「アンラーニング」が不可欠となるのです。
リスキリングに取り組む上で、新しいスキルを身につけるだけでなく、アンラーニングの視点も重要になってくるでしょう。
このように、リスキリングという概念は、さらに広がりを見せています。時代の変化に合わせて、常に新しい概念を取り入れながら、人材育成を進めていく必要があります。
リスキリングに関するよくある質問
最後に、リスキリングに関するよくある質問をいくつかご紹介します。
リスキリングで最も需要が高いスキルは?
デジタル分野の中でも、特に需要が高いのは以下のスキルです。
- プログラミング(Python、Java等)
- データ分析
- クラウドコンピューティング
- AIの活用
いずれも、デジタル変革の中核を担う重要なスキルです。今後ますます需要が高まると予想されています。
40代・50代でもリスキリングに取り組む価値はあるか?
年齢に関わらず、リスキリングへの取り組みは大切です。特に40代・50代においては、セカンドキャリアを見据えた準備としてリスキリングが推奨されています。
また、定年退職後の生活設計にも役立ちます。収入の柱を増やすだけでなく、活力ある生活を送るためのスキルを身につけることができます。
リスキリングの費用はどのくらいかかるのか?
リスキリングにかかる費用は、選択する講座やスクールによって大きく異なります。無料のオンライン講座から、数十万円の民間スクールまで、様々なラインナップがあります。
ただし、国や自治体の助成金制度を上手く活用すれば、実質的な費用負担を大幅に抑えられる可能性があります。
会社に勤めながらリスキリングに取り組めるか?
会社に勤めながらでも、リスキリングへの取り組みは可能です。ただし、会社の理解と協力が不可欠です。就業時間内にリスキリングの時間を確保したり、社内の研修制度を活用したりと、様々な工夫が必要になります。
また、eラーニングなどを利用すれば、自宅でも学習を進められます。仕事と学習の両立は大変ですが、着実に取り組んでいくことが肝心です。
このように、リスキリングに関する疑問は尽きません。一人で抱え込まず、上手く支援制度を活用しながら、着実に歩みを進めていくことが大切です。
まとめ
本記事では、デジタル時代の到来に伴い、リスキリングの重要性が高まっている背景と、具体的な取り組み方について解説してきました。
社会構造の変化に伴い、これまでの経験やスキルだけでは通用しなくなる時代が到来しています。AIやデータ分析、プログラミングなどのデジタルスキルを身につけることが不可欠です。
国や企業、個人それぞれのレベルで、リスキリングへの取り組みが活発化しています。一方で、日本企業には働き方や処遇、学習への意識といった課題も残されています。
リスキリングは決して簡単な道のりではありません。しかし、着実に一歩ずつ進めていけば、必ず報われる日が来るはずです。時代の変化に飲み込まれないために、一人ひとりがリスキリングに取り組む姿勢が何より重要なのです。