ITエンジニア採用の成功に向けた徹底ガイド:戦略から実行まで
近年、デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、IT人材の需要が急増しています。しかしながら、優秀なエンジニアの確保は容易ではありません。本記事では、エンジニア採用を成功に導くための戦略と具体的な実行方法をご紹介します。
市場動向:エンジニア需要の高まりと供給の逼迫
経済産業省の調査によると、2030年にはIT人材が最大79万人不足すると予測されています。経済産業省 - IT 人材需給に関する調査 - 調査報告書(2019年3月)この背景には、AI・ロボット技術の発達や、デジタル化への投資増加などがあります。一方で、エンジニアの供給は需要に追いついていません。
また、2024年3月の有効求人倍率は、全職種平均で1.28倍でしたが、エンジニア(情報処理・通信技術者)では1.59倍と高い水準にあります。一般職業紹介状況(令和6年6月分) 参考統計表 常用(除パート)この数値は、企業がエンジニアの確保に苦戦していることを物語っています。
エンジニア採用が難しい15の理由
エンジニア採用が難航する主な理由は以下の通りです。
1. IT業界の成長に人材供給が追いついていない
ソーシャル、ゲーム、ECなど、ITを活用する事業分野が拡大しています。サービスやプロダクトがIT技術と切り離せなくなっている現状で、IT技術者を求める企業が増えています。しかし、人材育成の速度が需要に追いついていないため、人材不足が深刻化しています。
2. エンジニアの絶対数が少ない
エンジニアの需給ギャップが生じている大きな要因は、単純にエンジニアの絶対数が少ないことです。経済産業省の試算では、2021年のIT人材不足数は31万人、2030年には約45万人に達すると予測されています。経済産業省 - IT 人材需給に関する調査 - 調査報告書(2019年3月)
3. 売り手市場でエンジニアの流動性が低い
エンジニア職は”売り手市場”であり、優秀な求職者ほど高待遇で採用される傾向にあります。現在の所属先に満足している場合、転職の動機は薄れます。また、フリーランスとしてキャリアを歩むエンジニアも増えています。このように、エンジニアの人材流動性が低いことも、採用難易度を高めています。
4. IT技術の変化サイクルが短い
ITの分野では技術の進化が早く、習得したスキルが短期間で陳腐化してしまう可能性があります。エンジニアは常に最新の技術を学習し続ける必要がありますが、市場のニーズに人材のスキルがついていけずにミスマッチが生じがちです。
5. 採用計画と事業計画が連動していない
人事部門と事業部門の連携が不十分だと、事業に必要なスキルを持つ人材を確保できません。また、入社後に新人エンジニアの期待と実際の役割にギャップが生じ、早期離職に繋がる恐れもあります。採用計画は事業戦略から導き出される必要があります。
6. 求める人物像が明確でない
求める人材像が明確でないと、面接でのジャッジが難しくなります。また、採用広報や求人票の内容が的を射ずれば、マッチした応募者を得られません。”ペルソナ”を設定し、ターゲットとなる経験、スキル、人物特性を明確にすることが重要です。
7. 採用コンセプトが定まっていない
企業の魅力や働き方が伝わらず、求職者の興味を惹きつけられない場合があります。福利厚生以外の理念や文化を打ち出せないと、カルチャーマッチする人材の確保が難しくなります。採用コンセプトを策定し、方向性を明確にすることが肝心です。
8. 求人内容が求職者のニーズに合っていない
求職者の視点に立った魅力的な求人内容になっていないと、応募は集まりません。直近の仕事内容の羅列では不十分で、求職者が共感できる点を盛り込む必要があります。また、文法ミスや写真の質の悪さなども改善ポイントです。
9. 競合他社との差別化ができていない
複数の企業から内定を得ている優秀なエンジニアにとって、”自社を選ぶ理由”が明確でないと辞退されがちです。競合と比べた自社の強みや魅力を伝えきれないと、選考の最終段階で他社に流れてしまいます。
10. 選考スピードが遅い
約40%のエンジニアが、応募後の”翌日中”に企業から連絡があることを望んでいます。[弊社調べ]連絡が遅れると不安感や不信感を抱かれ、他社に内定を承諾してしまう可能性があります。選考のスピードアップが重要です。
11. 応募者のスキルを適切に評価できない
エンジニアのスキルは書類だけでは判断しづらい側面があります。人事担当者がエンジニアリングの知識に乏しいと、現場が求める適切な人材を見極められません。ミスマッチを防ぐには、現場エンジニアの協力が不可欠です。
12. 人事のエンジニアリング知識が不足
採用担当者がエンジニアリングの知識を持ち合わせていないと、応募者の能力を過小評価したり、現場のニーズとのミスマッチが生じがちです。基礎的な用語や開発プロセスの理解は必須です。
13. 技術以外のスキルチェックが不足
エンジニアには高度な技術スキルに加え、コミュニケーション力やチームワーク力なども求められます。開発技術だけでなく、これらのソフトスキルをチェックする必要があります。
14. エンジニアが入社を望める組織体制でない
リモートワークの環境や適正な評価制度の有無など、エンジニアにとって魅力的な組織体制になっていないと、入社を決めてもらえません。また、開発に集中できる環境整備も重要です。
15. エンジニアに情報が届いていない
有名なプロダクトがない限り、自社の認知度を高める努力が不可欠です。SNSや採用広報、勉強会などを通じて、継続的に情報発信することが求められます。
このように、エンジニア採用には様々な課題がありますが、戦略を立て、着実に改善を重ねることで、優秀な人材の確保につながります。
エンジニア採用に向けた戦略と実行方法
戦略フェーズ
1. 事業計画に基づいた採用計画の策定
採用は事業成長の手段です。まずは事業の将来像を明確にし、それに基づいて中長期の人材ニーズを捉え、採用計画を立案する必要があります。目先の数字ではなく、数年先を見据えた戦略的な計画が肝心です。
2. 人材要件の明確化
今後の事業展開から、どのようなスキルとマインドセットを持つエンジニアが必要かを具体化します。単にスキルだけでなく、自己研鑽の習慣や希望するキャリアパスなど、組織に適した人物像を明確にしましょう。
3. エンジニアリングの基礎知識の習得
人事担当者がエンジニアリングの基礎知識を身につけることで、現場のニーズとミスマッチを防ぐことができます。開発の種類、プログラミング言語、役割分担など、最低限の用語は理解しておきましょう。
4. 現場エンジニアの巻き込み
人事だけでなく、現場のエンジニアを採用プロジェクトに積極的に参画させることが重要です。スキル評価はエンジニア自身に任せ、人事は全体のプロセス管理に専念するといった役割分担が効果的です。
5. 自社の魅力の棚卸し
既存の社員にヒアリングを行い、自社の魅力や選ばれた理由を洗い出します。また、競合と比較した自社の強みや差別化ポイントを整理しましょう。この分析結果を採用コンセプトや求人内容に反映させます。
6. ペルソナとコンセプトの設計
上記の分析を基に、採用するエンジニアの”ペルソナ”を設定します。年齢、経歴、スキル、性格など、できるだけ具体的に描き出します。そして、そのペルソナに響くようなキャッチーな採用コンセプトを策定します。
7. CX施策のデザイン
採用プロセス全体を通じて、ペルソナに合わせたCX(候補者体験)を提供できるよう、各ステップでの施策をデザインします。キャンディデイトジャーニーマップを活用し、優先順位をつけながら具体的な施策を設計しましょう。
実行フェーズ
8. 採用広報の強化
SNSや社員インタビュー記事、テックブログなどを通じて、継続的に自社の認知度を高めていきます。エンジニア向けの勉強会やミートアップも有効な手段です。できるだけ多くのタッチポイントを設け、いずれは転職を検討するエンジニアにリーチできるよう地道な活動が大切です。
9. 適切な採用チャネルの選択
求人サイト、転職エージェント、ダイレクトリクルーティングなど、様々な採用チャネルを組み合わせて活用します。それぞれのチャネルの特性を理解し、自社の採用ニーズに合わせて最適なチャネルミックスを見出しましょう。
10. スカウトメールの改善
ダイレクトリクルーティングでは、魅力的なスカウトメールの作成が肝心です。PDCAサイクルを回しながら、開封率と返信率を高めていきます。現場エンジニアのレビューを受けたり、優秀な文例を参考にするなどして、エンジニア目線のメッセージを心がけましょう。
11. 採用ピッチ資料の作成
選考の場面で自社の魅力を訴求するため、エンジニア向けの採用ピッチ資料を用意します。開発環境や社員のバックグラウンド、自社のエンジニアリングに対する考え方などを分かりやすく盛り込みます。
12. 選考プロセスの改善
選考のスピードアップが不可欠です。応募から内定までを最短1ヶ月以内に収められるよう、ステップの簡素化や日程調整の工夫をします。また、書類選考では人物本位で判断し、現場エンジニアの協力を得ながらスキルチェックを行います。
13. 内定後のフォロー強化
内定者に対しては、印象的な通知方法を取り入れるなどして喜びを演出します。さらに、入社前の業務体験の機会を設けたり、不安や疑問を解消するフォローを欠かさないようにしましょう。
14. 組織文化の整備
エンジニアが開発に専念しやすい環境を整備することも重要です。リモートワークの推進、適正な評価制度の導入、勉強会の開催など、入社後のエンゲージメントを高める施策を講じましょう。
15. 定着施策の実施
入社後も継続的な定着施策が必要不可欠です。人事と現場の認識ギャップを防ぐため、新入社員の自己 分析や上長面談、サーベイ研修の実施などが有効です。また、エンジニアのキャリアパスを明確化し、成長の機会を提供することで、モチベーションの維持にもつながります。
このように、エンジニア採用には戦略の策定から実行、さらには定着施策に至るまで、様々な取り組みが求められます。時間とリソースをかけて着実に改善を重ねることが肝心です。一朝一夕にはいきませんが、着実な努力を積み重ねることで、確実に成果は出せるはずです。
エンジニア採用に役立つ媒体16選
ここからは、エンジニア採用に活用できる様々な媒体やサービスを紹介していきます。求人サイト、転職エージェント、ダイレクトリクルーティングなど、さまざまな手法について特徴と料金体系をまとめています。自社の採用ニーズに合わせて、最適な媒体を選択しましょう。
求人サイト
サービス名 |
特徴 |
料金体系 |
---|---|---|
type |
エンジニア経験者の採用に強み。登録者の17.4%がエンジニア。 転職イベントやWebマガジンなど独自の集客施策も充実。 |
掲載前の一時払い |
Green |
IT・Web系経験者の採用に特化。スカウトなどの運用型で応募を集める。 |
初期費用+成果報酬 |
Forkwell Jobs |
エンジニア向けイベントの開催実績があり、独自チャネルから優秀な人材を獲得。 スカウト運用が可能。 |
非公開 |
ダイレクトリクルーティング
サービス名 |
特徴 |
料金体系 |
---|---|---|
Findy |
GitHubなどからスキルレベルを算出し、ハイクラスエンジニアとのマッチングを実現。 AIによる求人チェックも。 |
各プラン別 |
レバテック |
40万人以上の登録者から最適な人材を紹介。Web/インフラエンジニアなど 職種別の専門チームがサポート。 |
成果報酬型 |
LAPRAS SCOUT |
エンジニアのアウトプットをスコア化し、転職意欲の変化に合わせてアプローチできる。 運用代行プランも用意。 |
資料に記載 |
転職エージェント
サービス名 |
特徴 |
料金体系 |
---|---|---|
type転職エージェント |
1都3県に強みを持つ。ITエンジニアの求人を多数保有。 |
成果報酬型 |
レバテックキャリア |
ITエンジニア・デザイナー専門で、新卒から中途、フリーランスまで幅広く対応。 |
成果報酬型 |
Geekly |
IT・Web・ゲーム業界に特化。長年の実績から高いマッチング精度。 |
成果報酬型 |
その他のサービス
サービス名 |
特徴 |
分類 |
---|---|---|
typeエンジニア転職フェア |
過去90回以上の開催実績がある日本最大級のエンジニア特化型転職イベント。 |
転職フェア |
typeIT派遣 |
IT・Web業界に強み。開発からクリエイティブまで幅広い職種に対応。 |
人材派遣 |
Workship |
機械学習でスキル評価。51,000人以上のエンジニア・デザイナーが登録。 |
フリーランス |
このように、エンジニア採用に特化した様々なサービスが存在します。自社の採用ニーズやリソースに合わせて、最適な媒体を組み合わせることが大切です。求人サイトとダイレクトリクルーティングの併用や、フリーランスの活用なども検討しましょう。
エンジニアが求める企業の条件
優秀なエンジニアを確保するためには、自社の魅力を高める必要があります。ここでは、エンジニアが企業に求める主な条件をご紹介します。
1. 待遇・福利厚生
年収やインセンティブなどの待遇面は、エンジニアにとって重要なポイントです。一方で、リモートワーク手当やフレックスタイム制、リフレッシュ休暇など、働き方に関する福利厚生も重視されます。
2. 評価制度
エンジニアは成長の機会を求める傾向があり、年功序列ではなく成果主義の評価制度を望んでいます。技術力や実績に応じた適正な評価が得られる制度が魅力的です。
3. 柔軟な働き方
エンジニアは仕事の効率性を重視するため、テレワークやフレックスタイム制、裁量労働制など、柔軟な働き方ができる環境が求められます。
4. 開発内容・言語
求人票には、開発内容や使用する言語、活躍が期待できる領域などを明示することが大切です。自分の経験と照らし合わせて、活躍の場があるかを判断するためです。
5. スキルアップ環境
研修制度や勉強会、書籍購入支援制度など、スキルアップの機会が提供される環境は魅力的です。常に学び続けられることがエンジニアのニーズとマッチします。
このように、エンジニアは単なる高待遇だけでなく、成長を後押しする環境を重視する傾向があります。自社の魅力を高めるためには、こうした点への配慮が欠かせません。
成功に向けたポイントのまとめ
最後に、エンジニア採用を成功に導くためのポイントを改めてまとめます。
- 事業戦略から採用計画を立案し、中長期の人材ニーズを捉える
- 求めるエンジニアのペルソナと採用コンセプトを明確化する
- 人事とエンジニア現場が緊密に連携し、役割分担を明確にする
- 自社の魅力を整理し、競合他社との差別化ポイントを打ち出す
- 採用広報の強化やSNS活用で認知度を高め、エンジニアとの接点を増やす
- 適切な採用チャネルミックスを見出し、スカウトメールの改善にも注力する
- 選考プロセスを改善し、スピーディーな対応を心がける
- 内定後のフォローと入社後の組織文化の整備にも力を入れる
- 定着施策を講じ、エンジニアのモチベーション維持につなげる
エンジニア採用には相当の困難が伴いますが、戦略を立て、着実に改善を重ねることで、必ず成果は出せるはずです。本記事が、皆様の採用活動の一助となれば幸いです。